CPUクーラーの外し方や付け方でお悩みではありませんか。この記事では、交換にまず必要なものや道具の準備から、作業前の注意点である静電気対策まで丁寧に解説します。Intelのプッシュピン方式やAMDのリテールクーラー、さらには簡易水冷の取り付け方まで網羅。
CPUグリスの拭き取り方や塗り方の量、バックプレートの設置、ネジの締め方といった細かな手順から、ファンの向きや電源ケーブルの接続、交換後の動作確認とCPU温度の確認方法まで解説。スッポン対策やクーラーが固い・外れない時の対処法も紹介し、自作PC初心者でも安心して作業できるようガイドします。
- CPUクーラー交換に必要な道具と安全な作業のための事前準備
- Intel・AMD純正クーラーや簡易水冷の正しい着脱方法
- グリスの塗り直しや「スッポン」など、よくあるトラブルの解決策
- 交換後の必須チェック項目である動作確認とCPU温度の監視方法
CPUクーラーの外し方と付け方の事前準備
- 交換に必要なものと便利な道具
- 作業前の注意点と静電気対策
- Intelプッシュピンの外し方
- AMDリテールクーラーの外し方
- クーラーが固い・外れない時の対処法
- AMDユーザー必見のスッポン対策
- CPUグリスのきれいな拭き取り方
交換に必要なものと便利な道具

CPUクーラーの交換作業をスムーズかつ安全に行うためには、適切な道具を揃えることが不可欠です。必須の道具と、あると作業効率が格段に上がる便利な道具に分けて紹介します。
必須の道具
これらがなければ作業ができない、あるいはPCパーツを破損させるリスクが高まる基本的な道具です。
| 道具 | 用途・選び方のポイント |
|---|---|
| プラスドライバー | PCケースのサイドパネルやCPUクーラーの固定ネジに使用します。ほとんどのネジはPH2(2番)サイズに適合します。先端に磁石が付いているタイプは、ネジの落下を防げるため非常に便利です。 |
| CPUグリス | CPUとCPUクーラーの間の微細な隙間を埋め、熱伝導を効率化するペーストです。クーラーを再利用する場合や、新品クーラーに塗布されていない場合は絶対に必要です。 |
| グリスを拭き取るもの | 古いグリスを除去するために使います。 溶剤:無水エタノールやイソプロピルアルコール(IPA)が最適です。固着したグリスを溶かしてきれいにします。 拭き取り材:キムワイプやキッチンペーパーなど、毛羽立ちにくい素材を選びましょう。細かい部分には綿棒も役立ちます。 |
あると便利な道具
必須ではありませんが、用意しておくと作業の安全性や快適性が向上し、トラブルを未然に防ぐことができます。
- 静電気対策グッズ:静電気防止手袋やリストストラップは、静電気によるパーツの故障リスクを大幅に低減します。
- ピンセット:細かいコネクタの抜き差しや、狭い場所に落ちたネジを拾う際に重宝します。
- エアダスター:PC内部やクーラーのヒートシンクに溜まったホコリを吹き飛ばし、冷却性能の維持に役立ちます。
- ライト:ヘッドライトや小型の懐中電灯があると、暗いPCケース内部でも手元を明るく照らせて作業が捗ります。
- パーツケース:外したネジを種類ごとに分けて保管できます。小さな皿などでも代用可能です。
- ヘラ:CPUグリスを均一に塗り広げる際に使います。グリスに付属していることも多いです。
作業前の注意点と静電気対策
CPUクーラーの交換作業は、PCの心臓部であるCPUに直接触れるデリケートな作業です。作業を始める前に、PCと作業者自身の両方で適切な準備を行い、パーツ故障のリスクを最小限に抑えましょう。
PCの電源オフと完全放電
作業中の感電やショートを防ぐため、PC内部の電力を完全に無くすことが非常に重要です。
放電の正しい手順
- Windowsを正常にシャットダウンし、PCの電源を完全に切ります。
- 電源ユニット背面にある主電源スイッチをオフ(「O」側)にします。
- 壁のコンセントからPCの電源ケーブルを抜きます。
- PCケースの電源ボタンを5~10秒間長押しし、マザーボードなどに残留した電力を完全に放電させます。
静電気対策の重要性
人体に帯電した静電気は、目に見えなくても数千ボルトに達することがあります。この電気がCPUやメモリ、マザーボードなどの精密な電子部品に流れると、一瞬で回復不可能なダメージを与えてしまう可能性があります。
静電気による故障を防ぐための対策
- 作業前の放電:作業を始める直前に、ドアノブや水道管といった大きな金属製品に触れ、体に溜まった静電気を逃がしてください。
- 適切な服装:静電気を発生させやすいフリースやセーター(化学繊維)は避け、綿素材の服を着用するのがおすすめです。
- 作業環境:カーペットの上など、静電気が発生しやすい場所での作業は極力避けましょう。
- 作業中の放電:作業中も、こまめにPCケースの金属フレーム部分に触れることで、作業中に発生した静電気を逃がす習慣をつけましょう。
- 対策グッズの活用:より万全を期すなら、静電気防止手袋やアースに接続するリストストラップの着用が効果的です。
Intelプッシュピンの外し方

Intelの純正(リテール)クーラーで広く採用されているのが、工具不要で固定できる「プッシュピン」方式です。外し方と付け方には少しコツが必要です。
外し方の手順
- 最初に、CPUファンの電源ケーブル(4ピン)をマザーボードの「CPU_FAN」と書かれたヘッダーから抜きます。
- クーラーの四隅にある黒いピンの上部を確認します。矢印が刻印された溝があります。
- マイナスドライバーなどを溝に当て、矢印が示す方向に90度回します。「カチッ」という手応えと共にロックが解除されます。
- 4つすべてのピンを同様に90度回します。
- ピンの頭を指でつまみ、上に引き上げます。ピンが少し浮き上がった状態になればOKです。
- 4つのピンすべてがロック解除されたことを確認し、クーラーをゆっくりと真上に持ち上げます。もし固着している場合は、軽く左右にひねるように力を加えると外れやすくなります。
付け方の手順
- CPUの表面に新しいグリスを塗布します。(新品のリテールクーラーには通常グリスが塗布済みです)
- 4つのピンの溝が、矢印とは反対の方向(取り付け方向)に向いていること、そしてピンが引き上げられた状態であることを確認します。
- マザーボードの4つの穴にクーラーのピンの位置を正確に合わせ、静かに置きます。
- 「右上→左下」「左上→右下」のように、必ず対角線上の順番でピンの頭を真下に強く押し込みます。「カチッ」と確かな音がするまで押し込んでください。
- マザーボードの裏側から見て、4つの黒いピンの先端が白い留め具を貫通し、しっかりと広がって固定されていることを目視で確認します。
- 最後にクーラー本体を軽く揺らし、ガタつきがないことを確認すれば取り付け完了です。
AMDリテールクーラーの外し方
AMDの純正クーラーには、主に「レバー式(クリップ式)」と「ネジ式」の2種類の固定方式があります。お使いのCPUソケットやクーラーの種類によって手順が異なります。
レバー式(クリップ式)の外し方・付け方
AM4ソケットなどで一般的に見られる方式で、マザーボード上のプラスチック製の土台(リテンションブラケット)に金属クリップを引っ掛けて固定します。
【外し方】
- CPUファンの電源ケーブルをマザーボードから抜きます。
- プラスチック製の固定レバーを上に起こし、ロックを解除します。(少し硬い場合があります)
- まずレバーと反対側にある金属クリップを、リテンションブラケットの爪から外します。
- 次にレバー側のクリップを外します。
- クーラーを真上に引き抜かず、左右にゆっくりとひねりながら持ち上げます。(詳細は後述の「スッポン対策」を参照)
【付け方】
- CPUにグリスを塗布します。
- まずレバーと反対側のクリップを、リテンションブラケットの爪にしっかりと引っ掛けます。
- 次にレバー側のクリップを爪に合わせます。
- クーラーをCPUに軽く押し付けながら、レバーを倒して固定します。この際、比較的強い力が必要になることがありますが、正常な仕様です。
- クーラーにガタつきがないか確認して完了です。
ネジ式の外し方・付け方
Wraith PrismクーラーやAM5ソケットで採用されている方式です。マザーボード裏のバックプレートに直接ネジで固定するため、より確実な固定が可能です。基本的な手順は後述する社外製クーラーの「ネジの締め方」と同様で、対角線上に少しずつ緩める・締めるのが原則です。
クーラーが固い・外れない時の対処法

いざCPUクーラーを外そうとしても、びくともしないことがあります。その原因は主に「グリスの固着」か「固定具の解除忘れ」です。慌てて無理な力を加えるとマザーボードを破損させる危険があるため、冷静に原因を特定して対処しましょう。
クーラーが外れない時のチェックリスト
- グリスの固着(特にAMD CPU):長期間の使用でグリスが硬化し、CPUとクーラーが接着剤のようにくっついてしまっている状態です。後述する「スッポン対策」の暖機運転を試してください。
- Intel プッシュピンの解除忘れ:4つのピンのうち、1つでもロックが解除されていない(90度回っていない、または引き上げられていない)と外れません。四隅すべてを再確認してください。
- AMD レバー式の解除忘れ:レバーが完全に起き上がっているか、両側のクリップがリテンションから外れているかをもう一度確認します。
- ネジ式の緩め忘れ:スプリング付きのネジは、緩んでも脱落しない構造のため、十分に緩んでいるか分かりにくいことがあります。4本すべてのネジが抵抗なく回るまで緩められているか確認しましょう。
- 物理的な引っかかり:クーラーのヒートシンクが、大型のメモリやマザーボードのVRMヒートシンクなどに引っかかっていないか、様々な角度から目視で確認してください。
AMDユーザー必見のスッポン対策
「スッポン」とは、CPUクーラーを取り外す際に、劣化したCPUグリスの強力な粘着力によって、CPUがソケットから一緒に引き抜かれてしまう現象です。特にピンがCPU側にあるAMDのPGA方式CPUで発生しやすく、ピン折れやピン曲がりを引き起こし、CPUとマザーボードの両方を破壊しかねない深刻なトラブルです。
スッポンを防ぐための予防・対策方法
最も効果的で簡単な予防策は、作業前にCPUを温めてグリスを柔らかくすることです。
- 暖機運転を行う:クーラーを外す直前に、CinebenchのようなCPUに高い負荷をかけるベンチマークソフトや、重いゲームなどを5~10分程度実行します。CPU自身の発熱でグリスが温まり、粘性が低下します。
- 速やかに電源を落とす:暖機運転が終わったら、すぐにPCをシャットダウンし、電源ケーブルを抜いて放電作業に移ります。時間が経つと再びCPUが冷えてグリスが硬化してしまいます。
- ひねるように外す:クーラーの固定具をすべて解除した後、真上に引き抜くのではなく、クーラー本体を掴んで左右にゆっくりとねじる・ひねるように力を加えます。「メリッ」とグリスが剥がれる感触があれば、ゆっくりと持ち上げてください。
もしスッポンしてしまったら
万が一CPUがクーラーにくっついたまま抜けてしまった場合は、絶対に無理に引き剥がそうとしないでください。
まずドライヤーの温風をクーラーの金属部分に当ててグリスを温め、柔らかくします。その後、CPUの側面を持ち、水平にスライドさせるように慎重に剥がしましょう。剥がした後は、ピンが曲がっていないか入念に確認してください。
CPUグリスのきれいな拭き取り方

新しいグリスを塗る前には、CPUとクーラーの両方に付着している古いグリスを完全に取り除く必要があります。古いグリスが残っていると、新しいグリスの性能が十分に発揮されず、冷却効率が低下する原因になります。
拭き取り手順
- 大まかに除去する:まず、キッチンペーパーなどを使い、CPUの表面(ヒートスプレッダ)とクーラーの底面に付着しているグリスを大まかに拭き取ります。
- 溶剤で仕上げる:新しいキッチンペーパーやキムワイプに、無水エタノールまたはIPAを少量染み込ませます。
- 優しく拭き上げる:CPUの銀色の表面を、中心から外側に向かって優しく拭き上げます。これを数回繰り返し、拭き取り材に汚れが付かなくなり、表面が鏡のようにピカピカになるまで続けます。
- クーラー側も同様に:CPUクーラーの底面も同じ手順で、グリスの跡が完全になくなるまで丁寧に拭き取ります。
- 乾燥させる:溶剤が完全に揮発するまで数分間待ちます。完全に乾いてから、新しいグリスを塗布してください。
拭き取りのコツ
ティッシュペーパーは繊維くずが残りやすいため、使用は避けるのが無難です。また、ヒートパイプが直接CPUに接触する「ダイレクトタッチ式」のクーラーは、パイプ間の溝にグリスが溜まりやすいので、爪楊枝なども使いながら念入りに除去しましょう。
CPUクーラーの外し方と付け方の実践手順
- CPUグリスの塗り方と適切な量
- バックプレートの役割と注意点
- CPU破損を防ぐネジの締め方
- 空冷クーラーのファンの向き
- 簡易水冷の取り付け手順と注意点
- ファンとポンプの電源ケーブル接続
- 交換後の初回起動と動作確認
- CPU温度の確認方法と負荷テスト
- 失敗しないCPUクーラーの外し方と付け方の要点
CPUグリスの塗り方と適切な量
CPUグリスの役割は熱伝導の補助ですが、その塗り方と量も冷却性能を左右する重要な要素です。量が不適切だと、期待通りの性能が得られないばかりか、トラブルの原因にもなります。
適切なグリスの量
量の目安は、「米粒1粒大から、あずき粒大」です。CPUのサイズに合わせて調整しましょう。
- 多すぎる場合:クーラーで圧着した際に横からはみ出し、マザーボードを汚したり、最悪の場合はソケット周辺の電子部品に付着してショートを引き起こす危険があります。また、グリスの層が厚くなりすぎて、かえって熱伝導を妨げてしまいます。
- 少なすぎる場合:クーラーを圧着してもCPUの表面全体にグリスが行き渡らず、熱がうまく伝わらない「ホットスポット」が発生します。これにより冷却性能が著しく低下し、CPUが高温になる原因となります。
代表的な塗り方
いくつかの塗り方がありますが、最も簡単で失敗が少ないのは「中心盛り」です。
おすすめのグリス塗布方法
- 中心盛り(点盛り):最も標準的で推奨される方法です。CPUの中央に米粒大のグリスを絞り出し、あとはクーラーを取り付ける際の圧力で自然に広げさせます。気泡が入りにくく、均一に広がりやすいのがメリットです。
- へらで伸ばす:付属のヘラやカードを使い、CPU表面に薄く均一に塗り広げる方法です。確実に全面に塗布できますが、塗りムラができたり、気泡が入りやすかったりするデメリットがあります。
- バツ印(×印)塗り:CPUの対角線に沿って×を描くようにグリスを出す方法。ヒートスプレッダが大きいCPUで、四隅までしっかりグリスを行き渡らせたい場合に有効です。
一度クーラーを設置したら、位置調整のためにずらしたり、持ち上げたりしないでください。気泡が入り込む原因になります。もし失敗した場合は、面倒でも一度グリスをすべて拭き取り、塗り直しましょう。
バックプレートの役割と注意点

バックプレートは、重量のあるCPUクーラーをマザーボードにしっかりと固定するための補強板です。マザーボードの裏面に取り付け、基板がクーラーの重みや圧力で歪んだり破損したりするのを防ぐ重要な役割を担っています。
バックプレートの種類と注意点
- マザーボード純正品:AMDのAM4/AM5ソケットなどでは、最初からマザーボードにバックプレートが取り付けられています。表側の固定具(リテンションブラケット)を外すと、このバックプレートが裏側に脱落することがあるため、作業中はマザーボードの裏側を手で押さえるか、テープで仮止めしておくと安全です。
- CPUクーラー付属品:多くの社外製クーラーには、専用のバックプレートが付属しています。取り付ける際は以下の点に注意が必要です。
- 向きの確認:バックプレートには正しい向きがあります。マザーボード裏面の電子部品やハンダの突起と干渉しないよう、取扱説明書をよく確認して正しい向きで設置してください。
- 絶縁シート:マザーボードとのショートを防ぐための絶縁シートが貼られている場合があります。これを誤って剥がさないように注意しましょう。
CPU破損を防ぐネジの締め方
ネジ式のクーラーを取り付ける際、ネジの締め方は冷却性能とCPUの安全に直結する非常に重要な工程です。誤った手順で締めると、CPUに偏った圧力がかかり、最悪の場合「CPUクラック」と呼ばれる物理的な破損を引き起こす可能性があります。
正しいネジの締め方手順
基本原則は「対角線上に、少しずつ、均等に締める」ことです。
- まず、4本すべてのネジを、ドライバーを使わずに指で回せるところまで軽くねじ込み、仮止めします。これによりクーラーの位置が安定します。
- ドライバーを使い、「右上→左下→左上→右下」のような対角線の順番で、各ネジを1~2回転ずつ締めていきます。
- このサイクルを数回繰り返し、徐々にテンションをかけていきます。これにより、クーラーがCPUに対して傾くことなく、平行な状態を保ったまま圧着されます。
- 最終的に、すべてのネジが軽く抵抗を感じて回らなくなるまで締めます。多くのクーラーのネジには締めすぎを防止するスプリングやストッパーが付いているため、力任せに締める必要はありません。
この手順を守ることで、CPUグリスも均一に広がり、最高の冷却性能を発揮することができます。緩める際も同様に、対角線上に少しずつ緩めていきましょう。
空冷クーラーのファンの向き

CPUクーラーのファンの向きは、PCケース全体の空気の流れ(エアフロー)を考慮して決めることが重要です。効率的なエアフローは、CPUだけでなくPC全体の冷却性能を向上させます。
PCケース内の基本的なエアフローは、「ケース前面から冷たい空気を吸気し、温まった空気を背面・天面から排気する」という一方向の流れです。この流れを妨げないようにファンを設置します。
サイドフロー型クーラー(タワー型)
最も一般的なタイプです。ファンがヒートシンクの側面に取り付けられています。
風の向き:PCケース前面(メモリスロット側)から空気を吸い込み、PCケース背面(I/Oパネル側)の排気ファンに向かって風が抜けるように設置するのが基本です。これにより、ケースのエアフローと連動した効率的な冷却が実現します。
トップフロー型クーラー
CPUソケットの上からマザーボードに向かって風を送るタイプです。
風の向き:ファンからマザーボード方向へ風を送り込む(吹き付け)のが基本です。これにより、CPUだけでなく、周辺にあるVRM電源回路やメモリの冷却も促進されるというメリットがあります。
ファンの風向きの確認方法
ファンのフレーム側面には、通常、風が流れる方向を示す「→」の矢印が刻印されています。また、一般的にモーターの支柱があるフレーム側が排気側(風が出ていく側)になります。
簡易水冷の取り付け手順と注意点
簡易水冷クーラーは高い冷却性能と静音性が魅力ですが、空冷クーラーとは異なる取り付け手順と注意点があります。特にラジエーターの設置位置は、性能と寿命に大きく影響します。
取り付け手順の概要
- ラジエーターの準備:まず、PCケースのどこにラジエーターを取り付けるか(天面、前面など)を決めます。エアフローを考慮してラジエーターにファンを取り付けます。(例:天面設置なら排気、前面設置なら吸気)
- マザーボードの準備:取扱説明書に従い、CPUソケットに対応したバックプレートとスタンドオフ(支柱ネジ)をマザーボードに取り付けます。
- ラジエーターの固定:ファンを取り付けたラジエーターを、PCケースの所定の位置にネジで固定します。
- CPUヘッドの取り付け:CPUにグリスを塗布した後、CPUヘッドの保護フィルムを剥がし、スタンドオフに合わせてCPUの上に乗せます。4つの固定用ナットを、対角線上に少しずつ均等に締めて固定します。
最も重要な注意点:ラジエーターの設置位置
簡易水冷のシステム内には、冷却液と共にわずかな空気が含まれています。この空気がポンプ部分に溜まると、「エア噛み」という現象が発生し、異音や冷却性能の低下、ポンプの寿命を縮める原因となります。
エア噛みを防ぐため、ラジエーターの一番高い部分が、CPUヘッド(ポンプ)よりも高い位置に来るように設置するのが理想です。
- 推奨される設置場所:PCケースの天面(排気)。空気が自然にラジエーター上部に集まるため、最も安全でトラブルが少ない設置方法です。
- 注意が必要な設置場所:PCケースの前面(吸気)。この場合、チューブの接続口がラジエーターの下側に来るように設置すると、空気が上部に溜まりやすくなり、ポンプへの混入を防げます。
ファンとポンプの電源ケーブル接続

CPUクーラーを正しく動作させ、CPUを適切に冷却するためには、電源ケーブルをマザーボードの正しい場所に接続することが不可欠です。
空冷CPUクーラーの場合
ファンから出ている3ピンまたは4ピンのケーブルを、マザーボード上の「CPU_FAN」と印字された専用ヘッダーに接続します。
「CPU_FAN」ヘッダーは、CPU温度に応じてファンの回転数を自動で制御する重要な端子です。間違えて「SYS_FAN」や「CHA_FAN」(ケースファン用)などに接続すると、CPU温度が上昇してもファンが高速回転せず、冷却不足に陥る可能性があります。必ず「CPU_FAN」に接続してください。
簡易水冷クーラーの場合
簡易水冷はファンとポンプの2種類の電源接続が必要です。モデルによって異なるため、必ず取扱説明書を確認してください。
- ラジエーターファン:付属の分岐ケーブルで複数のファンのケーブルを一つにまとめ、マザーボードの「CPU_FAN」ヘッダーに接続するのが一般的です。
- ポンプ:ポンプの電源接続先は主に3つのタイプがあります。
- マザーボードの「AIO_PUMP」や「W_PUMP」と書かれたポンプ専用ヘッダーに接続。
- 「CPU_FAN」ヘッダーに接続(この場合、BIOS/UEFIで回転数を常に100%に固定することが推奨されます)。
- 電源ユニットから直接SATA電源ケーブルで給電。
- RGB/LEDケーブル:ライティング機能がある場合、対応するマザーボードのRGBヘッダー(4ピン12Vまたは3ピン5V)に接続します。電圧とピン数を間違えると破損するため、慎重に確認が必要です。
交換後の初回起動と動作確認
すべてのパーツの取り付けと配線が完了したら、PCの電源を入れる前に最終チェックを行い、その後BIOS/UEFI画面で正常に認識されているかを確認します。
起動前の最終チェックリスト
- CPUクーラーはマザーボードにガタつきなく、しっかりと固定されていますか?
- ファンの電源ケーブルは「CPU_FAN」に正しく接続されていますか?
- (簡易水冷の場合)ポンプの電源ケーブルは接続されていますか?
- 作業中に外した可能性のある、グラフィックボードの補助電源ケーブルなどはすべて元に戻しましたか?
- PCケース内に工具や余ったネジを置き忘れていませんか?
起動とBIOS/UEFIでの確認手順
- PCケースのサイドパネルを閉じます。(万が一のパーツ飛散などを防ぐため)
- 電源ケーブルやモニターなどを接続し、PCの電源を入れます。
- 起動直後に「Delete」キーや「F2」キーなどを連打し、BIOS/UEFI画面に入ります。(キーはマザーボードメーカーにより異なります)
- BIOS/UEFIメニュー内の「Hardware Monitor」や「PC Health Status」といった項目を探して開きます。
- 「CPU Temperature(CPU温度)」と「CPU Fan Speed(CPUファン回転数)」の数値が表示されていることを確認します。
ファン回転数が表示(例: 800 RPMなど)されていれば、ファンは正常に動作しています。また、CPU温度がアイドル状態で異常に高くなければ(一般的に30~50℃台)、クーラーの取り付けは第一段階成功です。
CPU温度の確認方法と負荷テスト
BIOS/UEFIでの確認はあくまで初期チェックです。CPUクーラーが本当に正しく取り付けられているかを確認するためには、OSを起動し、専用のソフトウェアを使って高負荷時のCPU温度を測定する必要があります。このテストで温度が安定していれば、交換作業は成功です。
確認すべき温度と定番ソフトウェア
チェックすべきなのは、PCに負荷がかかっていない「アイドル時」と、CPUがフル稼働している「高負荷時」の2つの温度です。
- 監視ソフト:
- Core Temp:シンプルで動作が軽く、各コアの温度をタスクトレイに表示できる定番ソフト。
- HWiNFO64:CPU温度に加え、クロック周波数やファン回転数など、PCのあらゆる情報を詳細に監視できる高機能ソフト。
- 負荷テストソフト:
- Cinebench R23:CPUの性能を測定するベンチマークソフト。テスト実行中はCPU使用率が100%になるため、高負荷時の温度チェックに最適です。
温度確認の手順
- まず「Core Temp」や「HWiNFO64」を起動し、アイドル状態の温度(30℃~50℃台が目安)を確認します。
- 次に「Cinebench R23」を起動し、CPU (Multi Core) のテストを実行します。
- テスト実行中に監視ソフトのCPU温度がどこまで上昇するかを注視します。
- 温度の上昇が緩やかになり、一般的に90℃以下で安定するようであれば、CPUクーラーの取り付けは成功です。
もしテスト開始直後に温度が急激に95℃以上に達し、CPUの動作クロックが低下する(サーマルスロットリング)ような場合は、クーラーの固定が甘い、グリスの量が不適切など、取り付けに何らかの問題がある可能性が高いです。その場合は、再度取り付け手順を見直す必要があります。
失敗しないCPUクーラーの外し方と付け方の要点
- CPUクーラー交換作業前には静電気対策とPCの完全放電を徹底する
- Intelのプッシュピンは矢印の方向に90度回してロックを解除する
- AMDのレバー式クーラーはレバーを完全に起こしてクリップを外す
- クーラーが固い場合は無理に引っ張らず、固定具の解除忘れを確認する
- AMD製CPUではグリス固着による「スッポン」を防ぐため暖機運転が有効
- クーラーを外す際は真上ではなく、左右にひねるように力を加える
- 古いグリスは無水エタノールなどを使い、完全に拭き取ることが重要
- 新しいグリスの量はCPU中央に米粒1粒大が基本で、塗りすぎは逆効果
- ネジ式クーラーはCPU破損を防ぐため対角線上に少しずつ均等に締める
- 空冷ファンの向きはPCケース全体の空気の流れ(エアフロー)に合わせる
- 簡易水冷はポンプ保護のためラジエーターをCPUヘッドより高く設置する
- ファンの電源ケーブルはマザーボードの「CPU_FAN」端子に接続する
- 交換後はまずBIOS/UEFI画面でCPU温度とファン回転数を最初に確認する
- OS起動後、高負荷テストを行いCPU温度が90℃以下に収まるか最終確認する
- 作業で不明な点があればマザーボードやクーラーの説明書を必ず参照する